公開シンポジウム

第80回大会の公開シンポジウムは、以下の二本になります。

公開シンポジウムⅠ

 コロナが投影する学校教育の「本質」

 昨年から学校教育は新型コロナウィルス感染症(以下、コロナ)に翻弄されている。この間様々な問題が生じ、同時に様々な取り組みが試みられた。例えば、休校時においては貧困や格差といった教育の公平性の問題が頻繁に報じられたが、これは従前から指摘された課題が、困難な状況でよりクローズアップされたなかでの取り組みといえよう。また中教審は『「令和の日本型学校教育」の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す,個別最適な学びと,協働的な学びの実現~(答申)』(2021年1月)において、「当たり前のように存在していた学校に通えない状況が続いた中で」「学校がどれだけ大きな存在であったのかということが、改めて浮き彫りになった」と述べて、この状況下での子どもの健康問題や、保護者の負担の増加を懸念している(7頁)。

 一方、オンライン授業に代表されるようにコロナ禍の下で新たな教育実践が進められたことにも目を向けてみたい。ICTの活用自体は、感染拡大以前に文部科学省がGIGAスクールの実現を提唱しており、さらには高校の教科「情報」の創設にみられるように、はるか以前から取り組みが求められてきた。こちらはウィズコロナの状況下で取り組みが進展したケースと捉えることができるが、このような状況にならなければ活用が進捗しない要因が学校組織に内在しているのではないかという見立てもできる。

 このようにウィズコロナの下で、われわれは従来からの学校の「あり方」「方法」そして「様式」を問い直すことを余儀なくされている。上述のようなICTの急速な普及とそれが従前なかなか進展しなかったという学校組織の問題の他に、緊急事態宣言の下で、その遅れが懸念されながらも、かろうじて教育課程の履修が可能であったという事実からは、一斉授業という方法以外による学習の可能性や、今まで気づかれなかった学校組織の耐久性や復元力を見出すことができるかもしれない。反面、マスクの着用によってコミュニケーションが取りづらくなったという声が特別支援学校から寄せられており、学校教育がどのような前提で成り立っていたのかを再考させられる。

 このシンポジウムでは、今回学校教育が直面した課題とその対応、そして改善といった様々な取り組みや気づきを、コロナ禍という特定の環境下に押し込めて考えるのではなく、ウィズコロナの状況下における教育実践の結果、浮かび上がってきた学校の「本質」として捉えながら考えてみたい。

シンポジスト 森田 充 (つくば市教育長)
宮本 久也 (都立八王子東高等学校統括校長)
髙橋 智 (日本大学文理学部)
指定討論者 小国 喜弘(東京大学)
司会 山下 晃一 (神戸大学)
大谷 奨 (筑波大学)

公開シンポジウムⅡ

 STEAM教育論再考:その現在とこれから

 AIの社会実装やビッグデータの活用に象徴される急速な科学技術の進展によって社会が日々変貌しつつある今日、将来、一層複合的かつ重層的な様々な諸課題に直面する児童生徒のために、課題発見とその解決や新しい価値の創造に必要な資質・能力を、教科等の枠組みを超えて育成することが必要になる。このような認識の下、わが国の教育政策の重点事項の一つとしてSTEAM教育が教科横断的な教育の推進の「旗手」として注目され、様々な研究、実践が展開されてきている。

 もともと、米国における理工系の人材育成のための教育政策の観点から提唱されたSTEM教育は、科学、テクノロジー、工学、数学を中核に、異なる幾つかの教科での学習を基盤とし、それらを統合した教科横断的な活動として展開されてきた(長洲他, 2018)。現在では、ArtやLiberal Artsを加えたSTEAM教育やRoboticsを含むSTREAM教育等、様々な呼称とその活動の提案がみられるようになった。

 国内では、教育再生実行会議第11次提言において、幅広い分野で新しい価値を提供できる人材を養成するための方策として、プログラミングやデータサイエンスに関する教育や統計教育に加え、STEAM教育の推進が提言された。また、中央教育審議会の令和3年1月26日の答申(中央教育審議会, 2021)では、新時代に対応した高等学校教育等の在り方についての提言の中で、「STEAM教育等の教科等横断的な学習の推進による資質・能力の育成」が柱の一つとされている。 

 現在注目されているSTEAM教育には、個別教科の学習との関係(往還)やカリキュラム・マネジメントの問題、担当する教員組織の問題、具体的な教材開発や実践上の問題が予想される。また、産業界や企業など、教育界の「外側」からの眼差しも気になるところである。教育政策の舵が大きく切らようとする我が国において、改めて「STEAM教育」の意義と研究、実践の内実を点検する必要があるように思われる。

 一方、研究分野としてのSTEM教育の成長も著しい。例えば、2014年8月に創刊された国際研究誌International Journal of STEM Education は、2014年から2019年までに年度別のアクセス件数が6,669件から373,846件に急増している。この雑誌は、2019年から社会科学系の雑誌インデックスSSCIの対象となり、最初のIF(インパクト・ファクター)は1.850で、SSCIの「教育と教育研究」カテゴリーの国際誌263件のうち100位に位置するなど、新しい学術研究領域としての「STEM教育」の成長がうかがえる(Li, 2020)。

 本シンポジウムでは、教育政策として推進されつつあるSTEAM教育の現況を確認するとともに、産業界や企業からの眼差しにも関心を向けながら、これまで見落とされてきた課題を顕在化し、STEAM教育の在り方を教育学の立場から再検討することを目的とする。併せて、STEAM教育の学術的研究における課題と方法を展望する。

 引用文献

 1)中央教育審議会(2021)『「令和の日本型学校教育」の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す,個別最適な学びと,協働的な学びの実現~(答申)』

 2)長洲南海男(代表)(2018)『教科と内容構成新ビジョンの解明—米国・欧州・STEM・リテラシー教育との比較より』(平成27年度~29年度科学研究費補助金基盤研究(B)報告書)

 3) Li, Y. Six years of development in promoting identity formation of STEM education as a distinct field. IJ STEM Ed 7, 59 (2020). https://doi.org/10.1186/s40594-020-00257-w

シンポジスト 大島 まり (東京大学大学院情報学環/生産技術研究所 教授、元機械学会会長)
中島 さち子 (株式会社steAm代表取締役社長、音楽家、数学(STEAM)教育家)
小林 廉 (東京学芸大学附属国際中等教育学校教諭)
高田 章 (ロンドン大学特任教授、元日本応用数理学会会長)
司会 人見 久城 (宇都宮大学)
山本 容子 (筑波大学)